2022年頃に、「住まいとして郊外の古屋を探したい」と相談があり、それからしばらくお互いにイメージに合う物件を探していましたが、やはり実家の横に新築することになり、2023年にこの計画をスタートしました。
実家の敷地に建築できるというのは、コスト的に非常に有利ですが、この敷地は市街化調整区域で、建築には基本的に行政の許可が必要になります。
当家はもともと農家住宅として建っており、母屋と一体的に利用するはなれ住宅であればこの許可申請は不要ですが、金融機関との調整において、完全に独立した敷地と住宅の成立が必要ということで、本意ではないものの敷地分割で建築法上の敷地を既存主屋から分割して建築許可申請を経て建築するという方法をとりました。そのことで実際、本来よりも付帯工事や経費が多くかかることになりました。
また、近年ひそかに住宅ローン控除制度も変更されており、高性能の住宅でなければそもそも控除自体されません。控除率も2022年にひっそりと1%から0.7%に下がっています。 そして近年のコストプッシュインフレと準備不足にて拙速にスタートした建築法改正。
良質な社会ストックの形成、新築建物の供給過多から空き家等既存建物等の利用へ向けた誘導策にしては、姑息で若年層に負担を強いる社会になってきているなとつくづく感じますが、私達が今出来ることはこの状況をよく把握して少しでも依頼主に実質的・心情的に利するよう努めることです。
幸いなことに依頼主はまたしても建築・デザイン系のプロフェッショナルで、固定観念から軽く逸脱していたので、前述のような様々な状況を鑑みながら、デザインについてのみならず、お互い協力して比較的スムーズにコスト計画等を進めることが出来ました。
プライバシーを考慮して幹線道路沿いの実家を盾にするように配置し、さらにコートハウス型とすることで、道路からの視線を気にすることなく前庭を楽しむことが出来るようにしました。ヴィンテージの家具や手作りの小物等も多く、新築ながら「なれ」を味わえるよう、解体した既存の倉庫から梁を抜き取って再生利用したり、わざと仕上製材をせずにナラの皮付荒天板を棚に使用したり。また中門の大戸面材には安孫子製材さんの工場の外壁を提供していただき、茶室の「さび丸太」のような景色の板戸が土塗りの外壁の間に配され、高級な隠家のような佇まいになりました。
引渡し後もたまに寄りますが、中門から一歩入ると、大らかでキャラの立った依頼主らしく、いつもとても心地の良い世界が広がっているのでした。
データ(敬称等略)
設計施工 加藤建築
解体 高橋組
基礎 平成グループ
木材 安孫子製材他
木工事 加藤建築
屋根・外壁板金 五大建板
サッシ やまぶきEX
木製建具 後藤建具店
左官 原田左官工業所
塗装 長岡塗装
内装 マストアーム
電気設備 小野でんき
衛生設備 イースト設備工業
外構 ハナ
2024年竣工
UA値:0.35 W/㎡K
一次エネルギー性能等級6
写真提供:志鎌康平 HP:志鎌康平写真事務所【六】