数年前の設計事務所登録の際に、新築にしても再生工事にしてもその建物との関わりの中で生まれる住まい手や近隣の人々、通行人等の記憶(メモリー)を大事にしたいとの思いから、事務所名を「STORAGE」(保管・倉庫)と名付けました。新事務所設立から程なくして、天童市の旧街道沿いのお宅を設計・施工することとなり、その時街道を挟んで筋向いの土蔵の土壁の美しさに惹かれ、この土壁を新築の家の外壁に写し取り、道を土壁の二軒で挟むことによって旧街道の記憶と空間を再生しようと試みました。住新築住宅の完成内覧会の折りに、筋向いのその土蔵の持ち主さんが来訪され、「実はこの土蔵は近年取り壊すかも知れない」とのことで少し寂しく思っていたところ、数年後にご相談があり、やはり取り壊して新しい倉庫を建てようか迷っているとのことでしたので、旧街道筋の古くからの様子を残している建物は周囲ではこの蔵のみなので、修繕して残してみませんかと提案したところ、それが可能なのであれば是非ということになり、その方針で計画と施工を進めました。しかし、土蔵の構造上の宿命として、柱や土台等軸組の腐朽がやはり厳しく、また大分外側の土壁もひび割れや脱落がはげしかったため、軸組付近までの土壁と屋根土を撤去せざるを得ず、また軸組の補強も必要と判断されたため、インナーフレームとして土蔵内部にもう一列軸組を構成し、既存の梁や柱と縫い合わせることで補強を行いました。外壁側は格子型の木のフレームで建て包み、通気層を確保したうえでサイディング張りリシン吹付としましたが、以前にこの土蔵から外観を写し取った筋向いの新築の家から再度デザインを戻すように、上部はダークグレーの金属板、下部は土壁風の吹付として同様の外観でまとめました。 完成直後に近所の方が立ち寄り、一帯を見渡しながら何の気なしにこの街道や集落の昔の話をされ出した時は、冥利に尽きる思いでした。
データ(敬称等略)
設計施工 加藤建築
解体・基礎 髙橋組
木材 安孫子製材他
木工事 加藤建築
屋根板金 五大建板
サッシ やまぶきEX
塗装 長岡塗装
電気設備 小野でんき
2023年 再生完工