山形県の旧集落には、籾所(モミド)と呼ばれる、このような小規模の穀物貯蔵倉庫が多くみられます。
この板倉は以前の当家において、門の横にあったことから、「モンバン」とよばれていたそうです。
建物の成立は、江戸後期~明治期と考えられます。一度敷地内で移築されていると聞いていましたが、手ばらし解体時、墨書きの通り番付が東西逆であったことから、門付近からの一回目の敷地内移築時に180度回転して再生されていたことが確認されました。
主たる柱材と屋根の木羽は栗材、落し込み板と梁は松材、他は杉材と、適材適所。
今回の移築再生は新築当初から二回目となり、裏庭の畑用の倉庫としてよみがえることとなりました。
土台材及び垂木から上の屋根構造は新材へ交換としましたが、既存部材の8割程度は再生使用できました。
ほぼすべてが無垢の木材のため、使用できなかった部材に関しては、最後の役目として依頼主さんの薪ストーブの燃料となりました。
100年以上にわたって炭素を固定し続け、最後も暖房のための燃料となる。しかも100年前の大工たちと、現在の大工の技術・精神を紡ぐ媒体として機能する。
こういった一連の流れこそが、建築における持続可能性であると思っています。
この建物の歴史を軸にした100年の間に、物価に対して手間賃が高騰してしまったので、経済的合理性のみで考えれば、これを機械で解体・処分し、新築したほうが安価であったかも知れません。
しかしこの板倉を通じ、上記のような文化価値が存続するということについて、依頼主さんにご理解がありましたことに大変感謝いたします。

データ(敬称等略)
設計施工 加藤建築
調査協力 山形大学工学部 濱研究室

2022年 竣工