築30年の趣がある中古住宅を購入された若いご夫婦からの依頼で部分的にリノベーションをさせていただきました。

既存の建物は、30年ほど前に新築された、水廻り以外ほぼ全室畳敷きの平屋の住宅。

屋根は和瓦葺き、門と庭の付いた本式の和風住宅です。初回の調査時、玄関に踏み込んだと同時に、設計・施工の精度の高さと、元の住まい手さんの丁寧な暮らしぶりが同時に感じられました。

基本的には、改修すべき箇所が見受けられない程の完成度なのですが、新しい住まい手さんより、床と天井の断熱、台所機器の入替、一部収納増設ということで依頼を受け、なるべく元の住宅の持つ上質な空間を大きく変化させないように改修しました。

真壁造の和風住宅は、長い間あたりまえのものとして、日本の生活様式や風物詩と共に存在し、住まい手の所作の美を磨いてきました。建築的な観点では、その平面構成や木割、材種、畳の敷き方等に定型があり、またそれに付随して大工をはじめとする職工の、修練による高い技術が必要とされてきました。特に書院付の広間や茶室のあるこのような住宅は、個人宅としてはなかなか新築されることは無くなってしまったことが、計画・設計においての知識、技量もさながら、職工にとっても高度な技術を必要とせず、(一部の特別な機会を除く)一般的な仕事の技術レベルが上がらないことの一因となっていると思われます。

一方で生活の観点からすれば、山形の厳しい冬場、断熱という絶対的な命題が存在することも確かです。上記の伝統的な型との関係、コストなど、折り合いをつけるべき要素が混在しますが、こういった住宅に価値を見出し、必要な改修を施しながら継承する住まい手さんが現れたという一件に、私たちは非常に注目し、重要視しています。

データ(敬称略)
元設計  佐藤祐子
施工   加藤建築
木工事  加藤建築
木製建具 後藤建具店
電気設備 井上電気工事店
衛生設備 三瓶設備
断熱工事 ピコイ

2021年 竣工